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ながいからつづーき。
3
明日の買い物までにいたった道のりの回想をしようと思う。
最初に、美咲も変だが、美咲の彼氏も相当変な人で、こちらも重度のオタクと言えるような人だ。美咲の彼氏、ゆういちさん、は大学2年生で美咲とは俗にいう出会い系で出会ったらしい。オタクが出会い系って・・・、と思うけれどまあアリガチだよ、と美咲は笑っていた。わたしにはほんとうのことはわからない。
さて、美咲の彼氏とはじめてあったのは本屋でだった。2人で本屋に行ったときに、たまたまゆういちさんのバイトの時間と被ったのだ。それから、3人で何回か遊びに行った。ゆういちさんはいい人だった。すくなくとも、節操のないオタクの美咲よりは常識を持っているオタクだった。
それで、なぜわたしと美咲とゆういちさんが明日でかけるのか。実は明日のお出かけにはタイトルがついている。誰がつけたかは、わかるとおもう。
そしてそのタイトルは
『恋する乙女がそれじゃだめ、咲子たんファッションチェックというかもうファッションチェンジ』
長い。まず長い、次に頭悪い、さらにまったく要領が掴めない。まさに3重苦以上(以上、なのはもっと出てくると思うから。)を背負ったかわいそうなタイトル、そしてその中にわたしの名前があるのは心外といえば心外、だけれど明日の買い物はまさに「わたしのため」なのだった。
きっかけは美咲の一言だった。
「咲子たん、もっさい。」
3人でお茶をしてるときだった。
「おまえな、友達にいきなりもっさいって言うのはどうだろうか。」
「だって、もっさい。」
「というか、俺達は今、ファッションとは真逆の話題、今期のアニメについて話してたよな?」
「でも、なんかもっささが目に付いてしまって・・・。」
とことん失礼なヤツ。だけど、2人の服装と自分の格好をみて、気にしてないわけではなかったけれどもっさい。もっさいったらもっさい。わたしはまだ腐女子でもオタクでもないはずなのに、もっさい。オタクを堂々と公言している二人の方がよっぽどオシャレだ。
そんな二人の今日の格好は、美咲はシャツに黒のニットベスト、プリーツのみにスカートにニーソックスとパンプス。髪型はいつもどおりで、バックは「誕生日にゆういちさんに貢がせた」というヴィヴィアン・ウェストウッド。ゆういちさんはジーパンに、シャツとスーツみたいなジャケット、靴は「イタリアっぽくてかっこいいでしょ」という革靴。わたしは同席していてごめんなさい、というジーパンにTシャツに黒のパーカー。・・・これは女子として、終わってる・・とさすがに自分でも思う。
「咲子ちゃん、気にする事ないから。服装なんて、似合ってればいいと思うし。」
「咲子たんはもっと似合う服があるはずだ。なのに・・・」
「美咲は黙ってろよ。」
「・・・ゆういちさん、お言葉大変嬉しいんですが、」
ん?と美咲を止めながら首を傾げるゆういちさんに聞いてみる事にした。ずっと気になってたことを。
「でも、わたしの格好って、もっさいですよね?」
「あ、それは、うん。」
「ほら、ゆういち君だってそう思ってるじゃん!てゆーか失礼だ!女子に向かって!」
「普通に比べて地味って意味だ。それに失礼なのは、」
「アンタ。」
「咲子たんひどい!!」
ぎゃーっと大騒ぎする美咲を放って、ゆういちさんが口を開いた。
「あんまりオシャレとか興味ない?」
「てゆうわけじゃないんですけど。」
「女の子ってオシャレ好きなんじゃないの?」
「いえ・・・まあ・・・」
口を濁すと、なんで?と首を傾げられた。・・・なんで、と言われても、うーん・・・
「オシャレに興味がないっていうか・・・何を着ても似合わないじゃないですか。」
「誰が?」
「わたしが。」
ゆういちさんはポカーンとしている。美咲は拳を握って、それをぐわーーーっと上にあげて怒りの雄たけびを上げた。ああうるさい。・・・こういう風に流せるようになった自分が憎い。
「咲ちゃんはわかってない!!!」
「何を。」
「何が?」
美咲はすぅと息を吸い、大声を上げた。
「女の子は!女の子ってだけでかわいいんです!!」
・・・それでもかわいくない子はここにいるじゃない。オシャレは興味なくないけど、わたしに似合う服はこの世にない。眼鏡、適当な髪型、クセ毛、そばかす、かわいくなりようがない。ついでに、服を買うお金は本を買うお金にまわされる。
「・・・まあ、確かに。女の子ってだけでかわいいよね。」
「ゆういち君の女の子好き!!」
「俺はスケベじゃない、ドスケベだ。変態じゃないド変態だ。」
「ゆういち君素敵!!」
「・・・あいかわらずあんたとゆういちさんのテンションにはついていけない。」
充分ついてきてるよ、と美咲が笑って、わたしはつられて笑ってしまった。それでも、ついていけてない、と信じたい。
ひとしきりゆういちさんの変態ぶりを美咲が喋って、さすがにゆういちさんも恥ずかしくなってきた頃に、ゆういちさん自ら口を開いた。
「じゃあさ、今度みんなで服を買いに行こうか。咲子ちゃんの。」
「コスプレ衣装?」
「美咲殴るよ?」
「イヤン咲ちゃん!冗談でしょお!行こう行こう!来週の土曜日決定!」
「俺、4時からバイトだけどそれまでで良い?」
オッケーと美咲が親指を立てて、みんなでスケジュール帳に書き留める。
そういえば、友達と洋服を買いに良くなんて今までなかったなあ、とぼんやり考える。すこしだけ、来週が楽しみになってきた。
・・・・もちろん一週間後のわたしが、目が覚めて戦いのような一日になるとは、考えてもいなかったけど。